
中学受験とプログラミング教室は両立できる?——小5・小6で「続ける・お休みする」を決める3つの軸
秋になると、小学4〜5年生の保護者の方から同じ相談をいただきます。「塾が本格的になってきたので、習い事を整理しようと思っていて。でも本人はプログラミングだけは続けたいと言うんです」。
この記事に「正解」は書いていません。受験の仕方も、お子さんの体力も、家庭ごとに違うからです。代わりに、続ける・減らす・お休みするを決めるときに見る3つの軸と、学年ごとの現実的な選択肢、家庭で決めるときの手順をお渡しします。決めるのはご家庭、材料を出すのが教室の役目だと考えています。
前提:受験と習い事は「ゼロか100か」ではない
まず、中学受験のスケジュールの全体像を押さえておきます。首都圏の多くの進学塾では、小学3年生の2月(「新4年生」)からカリキュラムが始まり、小5で理科・社会の量が増え、小6の秋以降は過去問と模試が中心になります。通塾は小4で週2回前後、小5〜6で週3回に土曜が加わる、という形が一般的です。
つまり「受験するから習い事は全部やめる」という決断を迫られるのは、実際には小5の後半から小6にかけての1年ほどです。それまでの期間は、多くの家庭が何かしらの習い事と塾を並行させています。
大事なのは、「やめるか続けるか」の二択にしないことです。間には「回数を減らす」「曜日を変える」「期間を決めてお休みする」という選択肢があり、現実にはそこに落ち着く家庭が多いと感じています。
続ける・減らす・お休みするを決める3つの軸
教室で保護者の方と面談するとき、「週に何時間空いているか」という時間の計算だけで決めないようにお願いしています。見るべきは次の3つです。
軸1:その習い事は「消耗」か「回復」か
同じ60分でも、お子さんにとって疲れを増やす時間なのか、疲れを抜く時間なのかで、意味はまったく違います。
見分け方は簡単で、教室から帰ってきたときの顔を見てください。塾の日より機嫌がいい、帰り道に自分から話す、翌日の勉強に支障が出ていない——そうであれば、その習い事は本人にとっての回復の時間になっています。逆に、行く前から渋る、帰ってきて何もできないほど疲れている、という状態なら、いまの回数は本人の容量を超えているサインです。
回復になっている習い事を削ると、空いた時間がそのまま勉強に回るとは限りません。息抜きの場を失って、かえって勉強の密度が下がることもあります。
軸2:「やらされている」か「自分で選んでいる」か
受験期は、塾の宿題も模試も、ほぼすべてが「やらなければいけないこと」で埋まります。その中で、自分で選んで通っているものが1つあるかどうかは、本人の気持ちの持ちようにかなり影響します。
判断の材料は、お子さんが教室の話を自分からするかどうかです。「今日は敵のキャラの動きを直した」「次はスコアを付けたい」と予定を口にするなら、それは本人が選んでいる証拠です。聞かないと何も出てこない、聞いても「別に」が続くなら、惰性になっている可能性があります。聞き方のコツは「教室で何やってるか分からない」を解消する質問の記事にまとめています。
軸3:お休みしたあと、戻りやすい習い事か
ここは、プログラミングという習い事の特徴に関わる部分です。正直に書きます。
プログラミングは、教材と作品が手元に残る習い事です。楽器や運動のように体の感覚が鈍る種類ではないので、数ヶ月のブランクがあっても、前に作ったものを開けば続きから再開しやすい。この点は、お休みという選択を取りやすい理由になります。
一方で、当教室の場合、Scratchからテキストの言語(Python や HTML / CSS / JavaScript)へ進むまでには2〜3年かけています。1年以上の長い中断は、進度としては振り出しにかなり近づきます。「お休み=進度を止める」ことであって、「貯金が消える」わけではありませんが、「いつでも戻れるから」と気軽に考えすぎるのも違う、というのが現場の実感です。
この3つの軸で見たとき、「回復になっていて、自分で選んでいる」なら続ける方向、「消耗になっていて、惰性」ならお休みを検討する方向、その中間なら減らす方向——というのが大まかな目安です。
学年別の現実的な選択肢
軸を当てはめたあと、実際にどんな形があるのかを学年ごとに並べます。
小4:両立しやすい時期。「曜日」だけ整える
塾の通塾日とぶつからない曜日に習い事を置けば、両立に大きな無理はない時期です。この時期に無理に削ると、本人の中で「受験=好きなことを奪われるもの」という印象が付きやすいので、むしろ好きなことを残したまま塾に慣れることをおすすめします。
小5:回数を減らして「息抜き枠」にする
理科・社会が増え、宿題の量が目に見えて変わる学年です。週1回が重く感じ始めたら、月2回に減らすという選択肢があります。当教室は月2回が基本の回数で、月3回・月4回を選ぶこともできるので、増やす方向にも減らす方向にも調整できます。回数を減らしても、作品づくりは続けられます。進み方はゆっくりになりますが、本人の「自分で選んだ時間」は守れます。
小6:夏で区切るか、受験期だけお休みするか
いちばん判断が分かれる学年です。選択肢は大きく3つあります。
- 夏休みまでで一区切りにして、受験後に再開する:秋以降は過去問と模試で土日が埋まるため、区切りとしては自然です。再開の目安を「2月の受験が終わったら」と、先に決めておくのがポイントです
- 月1〜2回の「息抜き枠」として残す:塾の無い曜日に、短い時間だけ来る形です。軸1で「回復」になっているお子さんに向いています
- お休みせず続ける:本人が強く望み、成績への影響が出ていないなら、無理にやめる理由はありません。ただし体調と塾の宿題の状況は、定期的に見てあげてください
どの形でも、再開するかどうか、するならいつかを先に決めておくことを強くおすすめします。「とりあえず休む」は、そのまま自然消滅になりやすいからです。
「プログラミングは受験に効く」と言いすぎない
教室の立場として、ここは誠実に書いておきたいところです。
プログラミングで育つ「順番に考える」「場合分けをする」「動かない原因を切り分ける」といった力は、算数の規則性や場合の数の問題と相性がよいと感じることはあります。プログラミングで「論理的思考力」は育つのかという記事でも、現場で見える変化を書きました。
ただ、それが中学受験の得点に直接つながるかというと、そこまでは言えません。受験の得点は、塾のカリキュラムと演習量で決まる部分が圧倒的に大きい。プログラミングを「受験対策の一部」と位置づけて続けるのは、本人にも教室にも無理が出ます。
長い目で見れば、高校の「情報I」や大学入学共通テストにつながる学びではあります(プログラミング学習と高校・大学受験は両立できる?)。でもそれは中学以降の話です。小5・小6の判断は、受験への効果ではなく、いまの本人にとって回復か消耗かで決めてください。
現場から
受験学年のお子さんが教室に来る日は、机に向かう顔つきが少し違います。
塾では「正解に向かって最短で進む」時間が続きます。それに対して教室では、自分で決めた仕様に向かって、自分の順番で進めます。「今日はここまで」を自分で決められる。その切り替えが息抜きになっている様子の子もいれば、逆に疲れが勝って集中が続かない日もあります。私たちはその日の様子を見て、課題の量を調整するようにしています。長く続けてもらうことより、その子の容量に合わせることを優先したいからです。
もうひとつ。受験を理由に一度お休みしたお子さんが、再開するときに前の作品を開く場面があります。「あ、ここまで作ってたんだ」と自分の作品を見返す時間は、ブランクを埋める時間というより、自分の積み上げを確かめる時間になっているように見えます。作品が残るという、この習い事の性質のよさを感じる瞬間です。
家庭で決めるときの手順
最後に、実際に家庭で話し合うときの手順を4つにまとめます。
- お子さんに聞く:「やめたい?」ではなく「教室の日は疲れる?それとも楽になる?」と、軸1の言葉で聞いてみてください
- 塾の予定を1枚の紙に書き出す:通塾日・宿題にかかる時間・模試の日を1週間分見える形にすると、空いている時間と、空いて見えるだけの時間の区別がつきます
- 「減らす」「お休みする」なら、再開の条件を先に決める:「2月の受験が終わったら」「模試の結果が落ち着いたら」など、具体的に
- 教室に相談する:回数の変更や一時的なお休みは、ご相談ください。本人の様子を教室側から見てお伝えできることもあります
習い事全般の「続ける・やめる・変える」の判断軸はこちらの記事に、受験に関係なく行き渋りが出ているときの見方は子どもが教室に行きたがらない時の3つのポイントにまとめています。
今日からの一歩
- 教室から帰ってきた日の顔を、1週間観察する:塾の日と比べて、機嫌・疲れ・翌日の様子がどう違うかをメモしておくと、軸1の判断材料になります
- お子さんに「次の授業で何をやる予定?」と聞いてみる:予定が口から出てくるなら、本人が選んで通っている習い事です
- 「もしお休みするなら、いつ再開する?」を家族で決めておく:決めてから休むのと、決めずに休むのとでは、戻ってくる確率が変わります